本「僕がワイナリーをつくった理由」

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最近読んでとても良いなと思った本がある。
新潟の角田浜にワイナリー「カーブドッチ」を築いた落さんの本で、
とても共感出来たのはもちろんの事、
ワイナリーはこうあるべきという自分の中でのイメージを具現化されていて、
ただただ素晴らしいと思った。
私がこの本を買った理由。
そもそも、私は離島が好きなので、佐渡島の事を調べていたら検索に引っ掛かった。
この本の本文にある、佐渡島を臨む新潟の角田浜にワイナリーをという事で、
直接佐渡島とは関係は無かったものの、
自分自身、ワイナリーをつくってみたいと思うところもあるので、
興味を惹かれ、即買ってしまったのだ。
このカーブドッチを立ち上げた落さんという方は、
今から約15年前、家族を連れて新潟の巻町に移住し、
ワイナリーを設立したわけだけど、
用意していた資金は約200万円というものだった。
日本のワイン醸造というものは適当なもので、
葡萄の濃縮還元果汁を海外から輸入してワインを醸造したり、
もっと酷いのは、海外で醸造されたワインを輸入して日本で瓶詰したり、
それだけで国産ワインと名乗れる馬鹿げた仕組みの中にある。
主な欧米諸国では、厳格なる原産地制度があり、そういう事は許されないのだけど、
日本には明確なワイン作りに対する法律が無いという事で、
つまり、ワインの品質なんて国は興味ないよという事なのでしょう。
おまけに、ワイン作りにはワイン用の葡萄品種をという考え方そのものが、
日本ではあまりに知られていないというのが実態としてあります。
ワイン用品種は、粒が小さく皮が柔らかいため、搾汁しやすい上、
適度な酸と、そして食用品種の1.5倍もの糖度を持っているという事で、
補糖する事無しに、アルコール12~13度のワインが造れるという事になるわけです。
日本では、ワイン造りにおいて補糖が認められているため、
糖度が低かろうが砂糖で補い、それによってランクを落とされる事もなく、
堂々と、補糖をしてないワインと同格で店頭に並ぶのです。
葡萄が国産でもないのに国産ワインとして流通させる事が可能で、
糖度が低くても砂糖を補えば良いという発想の元に造られる日本のワインの実情。
でもそれではいけないとこの作者は痛感していて、
きちんとワイン用品種の葡萄を自ら育て、
「大量生産・大量消費」ではなく、「少量生産・少量消費」に徹している方です。
カーブドッチワイナリーの葡萄畑は7ヘクタール、
そして年間約7万本のワインを造っているそうです。
つまり、1ヘクタール約10トン、全体で約70トンの葡萄を毎年収穫している計算。
自信を持って世に送り出せる品質のものを、
お客様に過不足無く行き渡らせるには、これくらいの量が適正だそうです。
それでもちょっと多いくらいで、生産量を減らすために、
葡萄の木を抜いたり、1本の木になる房の数を30房から20房に減らしたり、
葡萄の味をより理想に近づける努力をしているそうです。
たくさん作れば良いんだという間違った発想を覆す、職人気質ですね。
この方の経営哲学も面白いものがあります。
最初、資金が無いに等しい状況でしたが、
自分のワイナリーのファンを増やす活動をする事で共同経営者が現れ、
賛同してくれる地元の企業などを巻き込んで、資金を集めています。
私がやっている仲間組織「金太郎会」と通じるものがあるかなと少し思ったり(笑)。
何事も為せば成るわけで、色々と行動している内に仲間が増え、
人との出会いで物事が大きく好転する事はよくあるかなと。
自分の葡萄栽培やワイン造りを理解してくれる人だけ来てくれれば良いと、
ツアーや団体客の受け入れなどは断っていたり、
あくまでファンを育て、そのファンを大事にする経営哲学は私にとっても理想です。
また、ワイナリーを訪れたくなる空間にしようというのは大事です。
このワイナリーは広大なイングリッシュガーデンを作っていて、
庭整備のスタッフだけで10名もいるそうです。
同じ敷地に、ホール、レストラン、温泉宿泊施設、
パン工房、ソーセージ工房などを抱え、
全ての建物が木造でとてもセンスの良いものになっていて、
さらに、地下にあるワイン貯蔵庫で全ての建物を結んでいるそうです。
建物そのものも、古き良き古民家を移築・改築して使う事で、
情緒ある、癒しの空間を提供しているというわけです。
ホールではクラシックコンサートを開いたり、素敵なガーデンで結婚式を開いたり、
用事が無くても訪れたくなる、そんな空間作りにとても気を遣っています。
私は馬のいる風景が好きなので、
私だったら多分、馬のいる牧場とワイナリーを絡めるでしょう。
実際、私の葡萄畑には馬がいますし(笑)。
さらに素晴らしいのは、自分が気に入ってワイナリーを設立した角田浜一帯を、
日本のワイン作りのメッカにしたいという事で、
自分に続く人を育て支援し、同じ地域にワイナリーを増やす努力をしている事です。
ワイナリーがたくさんある事で自分の製品が売れなくなるのではなく、
その地域に訪れる人そのものを増やす事で相乗効果を得ようという発想こそ、
地域振興であり、ワイン振興なんじゃないかなと思うわけです。
あと面白かった部分を抜き出すと、
1、社員の給料は毎年面接して決める
雇う側の都合だけを社員に押し付けるのではなく、
雇われている側の希望を毎年聞く事で、
双方納得のいく条件で気持ち良く働ける環境にしているという事。
その給料は決して安いものではなく、地域の中で高い数字にしていて、
納得のいく報酬であればこそ、人が定着し、モチベーションを高めると考えている。
面接で年俸を決め、それを16分割し、毎月の給料が決まり、
残りはボーナス時期に2か月分ずつ支払うという形態。
さらには、ローテーション制で十分な休日を与え、
自分の職場に愛着を持ってもらえる工夫を怠らない。
そうしてこそ、初めて人が育ち、会社のためになる。
2、長い会議と飲み会は無し
全員が集う意味も無く長い会議は無駄。
その部署ごとに時折集まり、短いミーティングだけすればそれで良い。
年末に開く慰労会は参加自由で、社長は長居しない。
それは、トップの人間は、酒の席ではお金だけ払ってさっさといなくなる、
それこそが大切な事だと考えているから。
いずれも、自分が雇われている時にやって欲しくないと感じた事をしないだけ。
経営者と従業員とははっきりと距離感があるはずなのに、
それが無いふりをするのは嘘くさい。
それは社員の立場になって考えてみれば分かる事。
3、社員教育は必要ない
「いらっしゃいませ」を大きな声で言うのが必ずしも適した接客じゃない。
穏やかでゆったりとした雰囲気で、たくさんの自然に囲まれた場所なので、
そういう環境に適した挨拶は、目礼や笑顔なのではないか。
社員一人一人が、マニュアルではなく、
自分の気持ちを込めて、自分の言葉で接客する事が大切。
4、海外視察で働き手の向上心を育てる
毎年数名ずつ、世界各地のワイナリーを巡る旅をする。
現地で受ける感動や衝撃は、帰ってからの仕事のモチベーションになり、
それはワイナリー全体の質の向上に繋がっている。
若い社員の海外視察研修は、とても価値のある投資。
5、万人受けしない個性こそ大事
あえてこのワイナリーじゃないとダメだという個性を持つ事が大事。
高飛車かもしれないけど、闇雲にお客様を招くのではなく、
あえて訪れてくれるファンを増やす事。
それが当初興味を持ってもらった方の1割に過ぎなくても、
スタッフとお客様が平等の立場で接する事の出来るワイナリーでありたい。
6、子供は半完成品
子供が騒ぐ事で場の雰囲気を壊して欲しくない建物には、子供禁止にしてある。
半人前の子供が大人に迷惑をかけてはいけない、
子供に完全な人権は与えないという、ドイツの考え方に賛同したもの。
だから、公共の乗り物では子供は座る権利はないし、
大人が楽しむ場にワイワイと騒ぐ活発な子供は居るべきじゃないと考えている。
小さな子供は遠慮してもらうという考え方に賛同してもらえるお客様や、
子供が大きくなったら訪れようと考えてくれるお客様が、
リピーターやファンになってくれるわけで、
ワイナリーのあり方を曲げる事無く、お客様と良好な関係を築くには必要な事。
以上、いずれも全て私が普段考えているような事が書かれていて、
とても納得し、是非一度カーブドッチを訪れてみたいと思った。
多分、カーブドッチからワイナリーを抜いたとしても、
訪れてみたい癒しの空間であろう事は容易に想像できる。
自分もこんなワイナリーがつくれたらなぁと感じざるを得ないし、
仲間が集う場にしたいという気持ちを、これからも大切に持っていたい。
カーブドッチのホームページ
http://www.docci.com/
2009年12月04日 21:47 | お知らせ